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広島高等裁判所松江支部 昭和32年(ネ)130号 判決

松江市津田町三三二番地

控訴人

朝日自動車販売有限会社

右代表者代表取締役

沢田寅太郎

右訴訟代理人弁護士

君野駿平

被控訴人

右代表者法務大臣

唐沢俊樹

右指定代理人

西本寿喜

加藤宏

佐伯忠夫

畠山渉

近藤吉隆

松浦東

右当事者間の仮差押異議控訴事件につき当裁判所は昭和三十三年三月一二日終結した口頭弁論に基いて左のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人(債権者)国、控訴人(債務者)朝日自動車販売有限会社間の松江地方裁判所昭和三二年(ヨ)第一一号仮差押決定を取り消す、債権者の本件申請を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人の指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠関係は、左記のほか原判決の事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

被控訴人の指定代理人は甲第一、二号証を提出し、控訴代理人は当審証人沢田武重、同渡瀬稔の各証言を援用し、甲第一二号証の成立を認めた。

理由

成立に争のない甲第一号証の一、二第五号証の一ないし四に本件弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人が訴外マツエホンダモータース有限会社朝日モータース商会(以下訴外会社という)に対し原判決添付滞納税額表記載の合計金二、四四一、八九六円の租税債権を有し、何時にても滞納処分を執行し得る段階にあることを疏明するに足りる。

訴外会社が昭和三十年四月十六日控訴会社に対して什器、備品、新車(商品)部品(商品)債権等合計金五、三二二、四一六円相当の資産を譲渡した上、昭和三十一年六月三十日解散決議をし、同年七月十日その登記をなし現在清算中であることは当事間に争がなく、成立に争のない甲第四号証、第六号証、第一一号証の二原審証人村上繁男の一部証言を総合すれば、訴外会社が右譲渡により所有財産の大部分を失いその残余財産は極めて僅少となり、これをもつては到底前記滞納税金を支払うに足りないことにつき一応疏明があつたものということができる。原審における証人村上繁男の証言、控訴会社の代表者沢田寅太郎の本人尋問の結果中右に反する部分はいずれも措信し難く、原審証人村上繁男の証言により成立を認めうる乙第三号証第一〇号証は前顕甲第一一号証の二に照し検討すれば右疏明を左右する証左となし難い。

前顕甲第五号証の一ないし四原審証人松永貢の証言を総合すれば、前記滞納税金は訴外会社の昭和二十七、二十八、二十九各年度における確定申告の過少による更正、売上金の記帳脱漏による再更正として、又は売上金の記帳を脱漏してした別途預金を取締役が費消したためこれを賞与と認定して、いずれも昭和三十一年中に賦課されたものであるところ、控訴人(編注・訴外会社の誤り)が前記譲渡当時、将来如上のように更正決定等の行われることを慮り財産の差押を免れるため納税資金のなくなることを知りながら故意に前記資産を譲渡したことを疏明するに足りる。原審証人村上繁男、同長谷川仁、当審証人沢田武重、同渡瀬稔の各証言および乙第一四、一五、一六号証中右疏明に反する部分は前記各証拠に照し措信し難く、成立に争のない乙第一一号証によれば訴外会社が前記譲渡に際し控訴人に対し債務の一部を移転したことが窺われるけれどもこれにつき債権者の承諾を得て債務を免れた事実の疏明はなく、また原審証人村上繁男の証言により成立を認めうる乙第五号証の一、二、三、第六号証の一、二、三、第七号証によれば訴外会社が資産譲渡後昭和三十一年一、二月頃訴外本田技研工業株式会社からオートバイ等商品を買入れて営業していた事実を一応認めることができるけれども、右買入に伴い代金債務が発生するのであるから右各事実をもつては、前記疏明を左右するに足りない。

また控訴会社の代表者沢田寅太郎が右資産譲渡行為が訴外会社の債権者を害する行為であることを知らなかつた旨原審において証人佐々木種蔵控訴会社代表者沢田寅太郎は供述するけれどもこれらの供述部分は、成立に争のない甲第四号証第一〇号証より窺われる訴外会社の代表者村上繁男が控訴会社の取締役に就任している事実、原審証人村上繁男、当審証人沢田武重の各証言により明らかな村上繁男の娘が右沢田寅太郎の弟武重に嫁していること、成立に争のない甲第五号証の一、第八、九号証等にかんがみるとき容易に措信し難く、成立に争のない乙第一二、一三号証原審証人村上繁男の証言を総合すれば訴外会社が前記資産譲渡当時、昭和二十七、二十八、二十九各年度のすでに賦課されていた法人税を完納していた事実が窺われるけれども、右事実は前顕甲第五号証の一原審証人松永貢の証言に照すと未だ控訴人の善意を疏明するに足らず、他に右事実の疏明資料がない。

さて以上疏明された事実によれば、被控訴人は前記資産譲渡契約のうち前記滞納税額に相当する新車、部品等の譲渡行為の取消を求めることができるものというべきところ、控訴人が右物品を売却したため、現状回復が困難であることは本件弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、被控訴人は控訴人に対し右取消額相当額の損害賠償を求めることができるものと一応いうことができる。

さらに、成立に争のない甲第二号証第三号証を総合すれば、本件仮差押をする必要のあることが認められる。

そうすると本件仮差押決定は相当であるからこれを認可すべく控訴人の異議申立はその理由がないものといわねばならない。

よつて右同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三宅芳郎 裁判官 藤田哲夫 裁判官竹島義郎は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 三宅芳郎)

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